「知的に障害のない肢体不自由の人の居場所はどこにある?」
そんな問いから生まれたボードゲームラボ。
この団体は、特別支援学校の教員によって立ち上げられました。
きっかけは、高等部を卒業していく一人の生徒の存在です。
その生徒は肢体不自由があり、認知機能には障害がありませんでした。
卒業後、主な進路は在宅での活動となり、就労支援を受けながら生活していくことが決まりました。
しかし、そこでの「余暇の過ごし方」や「社会とのつながり」が、彼にとって十分に満足できるものになるのか——
教員として、そして彼に関わった一人の人間として、そのことが強く心に残りました。

当時は、常時の身体介助が必要な人が一般企業に就職するのは難しく、
彼の持つ意欲や興味を活かす場が限られており、
彼のような人が「自分らしく楽しめる時間」を過ごす場所が多いとは言えない状況でした。
「彼のQOL(生活の質)はどうなるのだろう?」
「彼のような人が、自分らしく過ごせる余暇の場はどこにあるのだろう?」
その問いが、この団体——ボードゲームラボを立ち上げる原点となりました。
つながるツールとしてのボードゲームの可能性と課題。
ボードゲームには、知らない人同士を自然に仲良くさせる不思議な力があります。
在学中の彼とも、授業の中で一緒にボードゲームを楽しんだことがあり、
障害のある人とない人を結び付ける活動としてのボードゲームに、魅力と可能性を強く感じていました。
一方で、彼と遊ぶときにはいくつかの工夫が必要でした。
たとえば、指でカードを差したり、手でカードを出したりすることが難しいため、
カードスタンドを使い、彼が口頭でカードを指定し、それを周囲が確認して進めていく——
そんなサポートが必要でした。
常に誰かが支援に入る必要があったり、
テンポが遅くなったりする面があり、
福祉や障害に理解のある人とならできても、
一般のプレイヤーと「同じ立場で自然に楽しむ」ことには、まだ壁があると、当時は感じていました。
「支援される人」ではなく「ひとりのプレイヤー」としての彼と
同じ時間を過ごすということ。
彼の卒業後、「肢体不自由の人が、もっとスムーズにボードゲームに参加できる方法はないか」と考え、
ツールの開発を始めました。
スイッチ操作でカードを出したり、意思を伝えたりできる仕組みを、
試作を重ねながら少しずつ形にしていきました。
そして、彼の卒業から2年後。
初めてのボードゲーム会を開くことができました。
彼がスイッチを操作して、LEDがパッと光り、カードを選択したとき——
その瞬間、場の空気がふっと変わりました。
これは楽しい!
そこにいたみんなが、何か大きな変化の立会人になったような気がしていました。
支援とか特別な配慮というより、ただ一緒に遊んでいる感覚がそこにありました。
彼が「支援される人」ではなく、「ひとりのプレイヤー」として参加できたその時間は、
私たちにとって忘れられない瞬間となりました。

その後も彼とのボードゲーム会は回を重ね、参加の輪はどんどん広がっています。
そして、
障害のある人も、ない人も同じ時間を一緒に遊べることの楽しさを、もっと多くの人に知ってもらいたい——
そんな思いから、「パラボードゲームラボ」は生まれました。
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